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最高裁判所第一小法廷 平成10年(オ)786号 判決

東京都目黒区中町二丁目三二番四-一〇一号

上告人

篠塚賢二

東京都大田区中馬込一丁目三番六号

被上告人

株式会社 リコー

右代表者代表取締役

桜井正光

右当事者間の東京高等裁判所平成九年(ネ)第二六三六号不当利得返還請求事件について、同裁判所が平成九年一二月一七日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

記録に照らすと、本件訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(上告人の上告理由は、民事訴訟法第三九四条あるいは第三九五条第一項第六号関係による。)

弁論主義のもとでの本件訴之(訴之の利益があることを前提として提起した訴之)における事実は、当事者の陳述がなければ判決の基礎にならない。

訴之の利益の存在は職権調査事項であるが、その判断の基礎になる事実は、本件訴之における当事者の弁論に現出したものに限るべきである。

換言すれば、訴之の利益の有無の判断のための資料の収集は、本件訴之における当事者の弁論にまつべきで、職権探知によるべきではない。

なお、訴之の利益の存否を判定する時期は、原則として、事実審の口頭弁論終結の時である。

原判決には、『手続上の過誤(「(本件訴之における当事者の陳述がない)判決の基礎にならない事実」ないし「(本件訴之における当事者の陳述がない)当事者の主張しない事実」の採用)』あるいは『理由不備』がある。

すなわち、要するに、『(民事訴訟法第一二五条の必要な口頭弁論における当事者の陳述により判決の基礎とすべき)事実審の専権に属する事実の認定を求めている主張』すなわち『平成九年七月二二日付け控訴理由書の「控訴の理由(請求の原因)」と題する別紙(新規の証拠も含む証拠と共に、本上告理由書にも添付した別紙と同じもの。なお、本件各該当目録記載の製品の数・額等については、第一審判決の「第二事案の概要」の一の記載参照)に記載の主張』すなわち『新規の証拠を含む証拠によっても重ね重ね真実に合致することが裏付けられている、新規性も有する考案として登録されたものであることが明らかな本件実用新案権が関する本件考案が係る構造についての真実合致の技術的記載に基づいた真実合致の技術的主張』すなわち『(事実審において前記一二五条の口頭弁論をしたが、ことごとく敗訴の判決を受けた別表(甲及び乙)にそれぞれ記載されている細分化した一部請求の旧訴である各別事件とは異なり、)新訴である本件は、瑕疵もなく、実質的に判断されれば、勝訴の判決となることが余りにも明らかな関係にある新規立証付き請求原因事実の主張』が採用されるべきであって、当事者の主張していない「(要するに、)本件訴之は民事訴訟法において要請される信義則に反するものである。したがって、本件訴之は、訴権の濫用にあたるものであって、訴之の利益を欠く不適法なもの」関係の採用は違法である(後者の採用は、勝つべき者が敗けてしまうことが明らかであり、不当である)。

よって、原判決には、「理由不備の違法」あるいは「判決に影響を及ぼすべき明らかな法令の違背」があるといわざるを得ない。

いずれにしても、原判決は、破棄を免れない。

以上。

別紙

「控訴の理由(請求の原因)」

1 控訴人(原告)は、次の実用新案権を有していた。

登録番号第九七八六〇二号

考案の名称 カッター装置付きテープホルダー

出願 昭和四一年六月一三日

出願公告 昭和四七年一月二二日

登録 昭和四七年九月二九日

2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本別紙添付の実用新案公報の該当項記載のとおりである。

3 本件考案の構成要件は、「巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口3には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪断する可動刃4を回動自在に設けたカッター装置付きテープホルダー」であること及び「操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造」を有することである。

4 本件考案は、本体1の巻回テープ類が支持されている定位置から引き出されて順次切断される巻回テープ類の案内ロール5・6が介在関連する「(点で交わる)縦方向と横方向に直角切断」することが可能な各別作動の切断関連位置(右「直角切断」が不可能な左右に横並びの各切断位置でなく、右「直角切断」が可能な前後に縦並びの各切断位置)を保つ構成に係る長さ切断用カッター部分の構成(固定刃2とともに形成される引出口3において、引き出した巻回テープ類を横方向に剪断する、回転自在に設けられる可動刃4の構成)及び幅截断用カッター部分の構成(摘み9を回すことによって操作される、引き出す巻回テープ類を縦方向に截断する、軸8に固着される幅截断用切刃7の構成)を、本体1に施した構成をもって一体となったカッター装置付きテープホルダーの構造を要旨とするものである(実質的要旨)。

5 本件考案は、本体1において、長さ切断用カツター部分の長さ切断用カッター(固定刃2、可動刃4)によって、引き出した巻回テープ類を横方向に切断することができるとともに、幅截断用カッター部分の幅截断用カッター(幅截断用切刃7)によって引き出す巻回テープ類を縦方向に切断することができるという作用効果を奏する(右可能な切断は、「(点で交わる)直角切断」である)。

6 被控訴人(被告)は、それぞれ業として、昭和五三年一月から同五六年六月一三日までの間、別紙目録(一)記載の製品(商品名「リコーPPC九〇〇及びB・Aチェンジャー」。以下「イ号製品」という。)及び同目録(二)記載の製品(商品名「リコーPPC九〇〇及びセンタースリッター」。以下「ロ号製品」という。)を、昭和五三年八月一五日から同五六年六月一三日までの間、同目録(三)記載の製品(商品名「リコピーPL五〇〇〇オート」。以下「ハ号製品」という。)を、製造販売した。なお、全製品を総称して「被控訴人製品(被告製品)」という。

7 本件考案の詳細な説明に記載した本件考案の構成に欠くことのできない事項のみが記載されている本件実用新案登録請求の範囲には、「図面に示すとおりの」とか、「一つの」とか、「二つの」とか、「手動のみの方法による」とか、「自動のみの方法による」とか、「幅截断が先で長さ切断を後とした配置順による」とか等の限定記載は全くないことが明らかであるところ、また、実用新案法における考案は、物品の形状、構造又は組合せにかかる考案をいうのであって、製造方法は考案の構成たりえないものであるから、被控訴人製品(被告製品)が本件考案の技術的範囲に属するか否かの判断にあたって製造方法の相違を考慮の中に入れるべきでないことはいうまでもないところ、控訴人(原告)は、本件考案の構成要件のうちの「可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し」との要件は「可動刃4の固着軸8に幅截断用切刃7を固着し」との要件でないことが明らかであるから、「(軸8に固着することを要件としない)可動刃4」とは別個の「(軸8に固着することを要件とする)幅截断用切刃7」を「軸8」に固着することを前提として、また、「緩挿」は「緩挿」であり、「固着」は「固着」であることを前提として、次のとおり、簡便に対比して、被控訴人製品(被告製品)は、本件考案の構成要件をすべて満たしており、本件考案の技術的範囲に属していると主張するものである。

(イ号製品ないしハ号製品についての番号及び記号は、別紙目録(一)ないし(三)の図面のそれによる。以下同じ。)

「巻回テープ類(ロール紙C、ロール紙1。後記の(註1)をも参照)を保持する本体1(本体a+e、本体57)に固定刃2(長さ切断用カッターである固定刃21、長さ切断用カッターである固定刃2)を有する引出口3(間隙部60、間隙部58)を形成し、該引出口3(間隙部60、間隙部58)には固定刃2(長さ切断用カッターである固定刃21、長さ切断用カッターである固定刃2)と共に、引出したテープT類(ロール紙C、ロール紙1)を剪断する可動刃4(長さ切断用カッターである回転刃22、長さ切断用カッターである回転刃3)を回動(回転)自在に設けたカッター装置付テープホルダー(ロール紙を切断するカッター装置を施した本体)」であること及び「操作摘み9(幅截断用カッターの回動式ツマミ40、幅截断用カッターの回動式ツマミ20。後記の(注3)をも参照)を有する可動刃4(長さ切断用カッターである回転刃22、長さ切断用カッターである回転刃3)の緩挿(非固着。後記の(注3)をも参照)軸8(軸45・44、軸45・46)に幅截断用切刃7(幅截断用カッターである上・下回転刃49・48、幅截断用カッターである上・下回転刃5・4)を固着し、軸8(軸45・44、軸45・46)と引出口3(間隙部60、間隙部58)の間に一対の案内ロール5・6(ローラ56・55、ローラ対55)を装架した構造」を有していることが明らかである。

(注1) ここに提出する甲第二一号証の一(集英社発行「新修広辞典」第3版の抜粋)によっても、「ロール」とは「巻くこと。」という意味もあり、また、ここに提出する甲第二一号証の二(三省堂発行「新コンサイス英和辞典」の抜粋)によっても、「roll」とは、「巻いてあるもの」とか、「巻紙」とか、「巻物」とか等の意味もあることが明らかである。(「接着テープ」も「巻回テープ類」である。)。

(注2) ここに提出する甲第一一号証(登録番号第九七八六〇二号閉鎖実用新案原簿事項証明書写)がかかるここに提出する甲第一〇号証(本件実用新案公報写)の考案の詳細な説明中の「特に本案のものは摘み9を回わして幅截断用切刃7を回わして引出すテープを長手方向に沿って截断できる効果を奏し、実益のある考案である。」によれば、「幅截断用切刃7を操作するための摘み9」が「操作摘み9」であることも明らかである。

(注3) ここに提出する甲第三〇号証(岩波書店発行「広辞苑・第四版」抜粋写)によれば、(考案の詳細な説明のうちの「軸8に遊挿した可動刃4」のうちの「遊挿」について、「遊」とは、「一定の位置や所属がなく、自由に動くこと」という意味もあることが明らかであり、また、「挿」とは、「さしこむこと。さし入れること」であるから、「遊挿」とは、「他所への移動も自由な(非固着の)挿入状態」を意味するものであることが明白をも参酌して、)「固着」とは、「かたくしっかりとつくこと。一定の場所に留まって移らないこと」を意味するものであることも明らかであるところ、右「固着」という意味を含まないことも明らかな右「遊挿」とほぼ同義と解される「緩挿」についてみれば、「緩」とは、「ゆるいこと。ゆるむ、ゆるめること。」であることが明らかであるから、これまた右「固着」という意味を含まないことが明らかな「緩挿(非固着)」とは、「(他所にも移動が可能な)緩やかに挿入された状態」を意味するものであることが明らかである。本件内・外不問の有機的構成技術体系がかかる空間のある構造において、「(回動自在に設けた回転刃である)可動刃4」を、「(幅截断用切刃7を固着した)軸8」から離れた「(固定刃2を有する)引出口3」に、(いろいろ可能な方法のうちの一方法によって、)回転自在に設けたものであっても何ら差し支えないものであって、さらなる説明を必要としないことが明らかである。なお、「回転」は「回動」の範囲内のものであることが自明であり、また、本件実用新案登録請求の範囲等の記載の理解を容易にするためのものにすぎない本件考案の図面表示の実施例とそっくりそのまま全く同じものが直ちに本件考案の技術的範囲を画するものでないことはいうまでもないところ、前記の対比における記載に現出のないことが明らかな、別紙目録(一)ないし(三)における、「(長さ切断用カッターである回転刃22を回転自在に設けるための一方法として装着させた慣用の軸にすぎない)軸61」、「(長さ切断用カッターである回転刃3を回転自在に設けるための一方法として装着させた慣用の軸にすぎない)軸59」は、いずれも本件考案の構成要件の「(幅截断用カッターである幅裁断用切刃7を固着する)軸8」に該当(相当)しない。

8 前記「新規の無錯誤真実合致事実」に基づいた主張・立証によれば、被控訴人製品(被告製品)は、本件考案(名称「カッター装置付きテープホルダー」)の構成要件をすべて満たしており、本件考案(物品「カッター装置付テープホルダー」)の技術的範囲に属しているといえる。

以上。

提出書証

(本別紙に記載のある書証)

甲第一〇号証

甲第一一号証

甲第二一号証の一

甲第二一号証の二

甲第三〇号証

〈51〉Int.Cl. B 65 d 〈52〉日本分類 134 C 102.12 日本国特許庁 〈11〉実用新案出類公告 昭47-1919

〈10〉実用新案公報

〈14〉公告 昭和47年(1972)1月22日

〈54〉カツター装置付きテープホルダー

〈21〉実願 昭41-55589

〈22〉出願 昭41(1966)6月13日

〈72〉考案者 佐藤和男

国分寺市新町3の412の20

〈71〉出願人 篠塚賢二

東京都品川区旗の台6の5の46

代理人 弁理士 丹生藤吉 外2名

図面の簡単な説明

第1図は本考案に係るカツター装置付きテープホルダーの縦断側面図、第2図はカツター機構の斜視図、第3図はカツター作動機構の側面図である.

考案の詳細な説明

本考案は接着テープ類を切断するカツター装置を施したホルダーに関するものである.

而して本考案は巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口3には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪断する可動刃4を回動自在に設けたカツター装置付テープホルダーにおいて、操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造を要旨とするものである.尚図中10は軸8に遊挿した可動刃4の作動レバーを示す

本考案は前記の構成であるから、テープを必要量引出し、レバー10を操作して可動刃4を作動させることにより、可動刃4と固定刃により前記のテープ類を剪断することができるのであつて、特に本案のものは摘み9を回わして幅截断用切刃7を回わして引出すテープを長手方向に沿つて截断できる効果を奏し、実益のある考案である.

実用新案登録請求の範囲

巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口3には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪断する可動刃4を回動自在に設けたカツター装置付テープホルダーにおいて、操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造.

引用文献

実公 昭40-2558

実公 昭15-13714

実公 昭33-10688

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

〈51〉Int.Cl. B 65 d 〈52〉日本分類 134 C 102.12 日本国特許庁 〈11〉実用新案出願公告 昭47-1919

〈10〉実用新案公報

〈34〉公告 昭和47年(1972)1月22日

カツター装置付きテープホレダー

実願 昭41-55589

出願 昭41(1966)6月13日

考案者 佐藤和男

国分寺市新町3の412の20

出願人 篠塚賢二

東京都品川区旗の台6の5の46

代理人 弁理士 丹生藤吉 外2名

面の簡単な説明

第1図は本考案に係るカツター装置付きテープルダーの縦断側面図、第2図はカツター機構の視図、第3図はカツター作動機構の側面図であ

案の詳細な説明

本考案は接着テープ類を切断するカツター装置施したホルダーに関するものである。

而して本考案は巻回テープ類を保持する本体1固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪する可動刃4を回動自在に設けたカツター装置テープホルダーにおいて、操作摘み9を有する動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造を要旨とするものである。尚図中10は軸8に遊挿した可動刃4の作動レバーを示す

本考案は前記の構成であるから、テープを必要量引出とし、レバー10を操作して可動刃4を作動させることにより、可動刃4と固定刃により前記のテープ類を剪断することができるのであつて、特に本案のものは摘み9を回わして幅截断用切刃7を回わして引出すテープを長手方向に沿つて截断できる効果を奏し、実益のある考案である。

実用新案登録請求の範囲

巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口3には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪断する可動刃4を回動自在に設けたカツター装置付テープホルダーにおいて、操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造。

引用文献

実公 昭40-2558

実公 昭15-13714

実公 昭33-10688

甲第一〇号証

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

甲第一一号証

〈省略〉

〈省略〉

甲第二一号証の一

〈省略〉

甲第二一号証の二

〈省略〉

甲第三〇号証

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

実用新案公報

〈省略〉

実用新案公報

〈省略〉

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